〒669-1535 兵庫県三田市南が丘1-30-17

TEL.079-563-2100

WEBからのご予約
三田市の歯科・大槻歯科医院

顎関節疾患 診療の手引き|医療関係者の方へ

顎関節疾患および顎関節症 診療の手引き

このページは紹介元の先生方、および院内スタッフ向けに、大槻歯科医院が顎関節症診療の考え方と手順をまとめています。多くの治療法、検査などは当院で対応可能です。日本顎関節学会の病態分類(2013年)と DC/TMD を基本枠組みとしています。

当院は、日本顎関節学会の指導医・専門医・認定医が在籍する関連研修施設です。

歯科医師・医師・歯科衛生士など医療関係者を対象とした内容です。一般の方向けの説明は 患者様向けページ をご覧ください。

病態分類(日本顎関節学会 2013年)

2013年の改訂で症型分類(旧 I〜V型)は病態分類に整理され、V型は削除、I〜IV型となりました。旧分類と異なり 重複診断が可能 です(例:咀嚼筋痛障害+非復位性顎関節円板障害)。実務上は、痛みの主因がどこにあるかを決めてから治療の優先順位をつけます。

病態 主な所見 治療の起点
咀嚼筋痛障害(I型) 咀嚼筋の運動時痛・圧痛。開口域は保たれるか、痛みで軽度制限。関連痛を伴うことがある セルフケア、TCH是正、運動療法、温熱
顎関節痛障害(II型) 関節包・靱帯由来の痛み。関節部の圧痛、下顎運動時痛、負荷試験陽性 安静、NSAIDs、可動域訓練
顎関節円板障害(III型)
a. 復位性/b. 非復位性
a:開閉口時のクリック、開口域は概ね保たれる
b:クリックの消失とともに開口制限(急性ロックで 25–30mm 程度以下)、患側への偏位
a:経過観察が基本
b:急性期はマニピュレーション、以後可動域訓練
変形性顎関節症(IV型) クレピタス、画像上の骨変化(平坦化、骨棘、びらん、硬化) 負荷軽減、疼痛管理、経過観察

DC/TMD との関係

DC/TMD は Axis I(身体的診断)と Axis II(心理社会的評価:疼痛強度・機能障害度・抑うつ・身体症状)の2軸構成です。国内では病態分類2013を用いる施設が多数ですが、難治例・遷延例では Axis II の評価を必ず併用 してください。慢性化の予測因子として、身体的所見より心理社会的因子のほうが寄与が大きい場面が少なくありません。

診断の流れ

  1. 問診発症時期と契機/痛みの部位・性状・日内変動/開口障害の有無と経過/クリックの既往と消失の時期/既往の歯科治療・外傷/睡眠・ストレス・服薬/日中の歯列接触の自覚
  2. 開口量の測定無痛開口量・最大自力開口量・強制開口量を切歯間距離(mm)で記録。オーバーバイト分を加算するか統一しておく。開口路の偏位(deviation/deflection)も記録
  3. 触診咬筋・側頭筋・顎二腹筋・胸鎖乳突筋の圧痛と関連痛、顎関節外側・後方の圧痛。押圧は約 1kg・5秒を目安に一定させる
  4. 関節音と負荷試験クリック/クレピタスの有無と開閉口のどの相か。下顎頭への圧負荷試験、抵抗開口・抵抗側方運動で筋性か関節性かを分ける
  5. 画像検査(適応を絞る)全例には不要。下記の目的が明確なときに選択する
  6. Axis II の評価疼痛強度、機能障害、抑うつ・不安の評価。3か月を超える例、複数部位の疼痛を伴う例では必須

画像検査の使い分け

検査 見えるもの 主な適応
パノラマ 下顎頭の概形、歯性病変 初診時のスクリーニング、歯性疼痛の除外
CT/CBCT 骨形態(平坦化・骨棘・びらん・硬化) 変形性変化の確認、外傷、骨性強直、腫瘍の疑い
MRI 関節円板の位置と形態、関節液貯留、骨髄浮腫 円板障害の確定、外科的介入の検討時、保存療法無効例
超音波 関節腔・表層の状態、注射時のガイド 簡易評価、注射の補助

画像所見と症状は一致しません

無症状者にも円板転位や骨変化は高率に認められます。画像単独で治療適応を決めず、必ず症状・所見と併せて解釈してください。「MRIで円板がずれている」ことは、それ自体では手術の理由になりません。

鑑別とレッドフラッグ

開口障害や痛みを伴う疾患=顎関節症だけではありません。顎関節症は除外診断の側面を持ちます。以下を認めたら、顎関節症として保存療法を続ける前に精査または専門機関への紹介を検討してください。

  • 腫瘍進行性の開口障害、片側性の持続痛、感覚異常、頸部腫脹、体重減少、上咽頭・耳下腺・下顎枝の腫瘤
  • 感染発熱、腫脹、発赤、嚥下痛、開口障害の急性増悪(歯性感染、化膿性顎関節炎、深頸部感染)
  • 神経障害オトガイ神経領域のしびれ、顔面神経麻痺、複視、聴力低下
  • 巨細胞性動脈炎50歳以上、側頭部痛、顎跛行、視力障害、炎症反応高値 — 緊急
  • 心血管労作で誘発される下顎・頸部の痛み、冷汗、胸部症状(下顎への関連痛としての虚血性心疾患)
  • 神経障害性疼痛電撃様の発作痛、trigger zone(三叉神経痛)、持続性特発性顔面痛
  • 関節リウマチ・膠原病多関節痛、朝のこわばり、両側性、急速な咬合変化(前歯部開咬)
  • 特発性下顎頭吸収思春期〜若年女性、進行性の前歯部開咬と下顎後退、両側性の骨吸収
  • 耳鼻科疾患難聴、耳漏、めまい、鼻閉、鼻出血を伴う耳前部痛
  • 頸原性・筋膜性頸部運動で再現される痛み、僧帽筋・胸鎖乳突筋のトリガーポイント由来の関連痛

急速な咬合変化を訴える患者には、補綴・矯正の前に必ず器質的疾患の除外を。特発性下顎頭吸収やRAを見落として咬合治療に入ると、経過とともに破綻します。

保存療法

治療は 可逆的・低侵襲なものから段階的に 進めます。多くの症例は初期治療の範囲で改善します。不可逆的処置(咬合調整、補綴的挙上、矯正)を初期治療として行うことは推奨されません。

1. 患者教育とセルフケア

  • 病態の説明と、自然経過で改善する例が多いことの共有。これ自体が治療効果を持ちます
  • TCH(上下歯列接触癖)の是正:リマインダー法。付箋やスマートフォンの通知で「離す」と気づく回数を増やす
  • 硬固物・長時間咀嚼の回避、大開口の回避(あくび時の下顎支持)、片側咀嚼・頬杖・うつ伏せ寝の是正
  • 温熱(急性炎症期・外傷直後は除く)、睡眠衛生

2. 運動療法

目的 方法 目安
開口域の回復 自力開口訓練、指を用いた他動的ストレッチ(痛みの手前で保持) 30秒保持を数回、1日数セット
筋緊張の緩和 等尺性収縮(抵抗開口・抵抗側方運動)、咀嚼筋のマッサージ 低負荷で反復
協調性の改善 正中を保った開閉口練習(鏡の前で)、下顎の後退位保持 短時間を高頻度で
非復位性円板障害の急性ロック 徒手的整位(マニピュレーション)。成功後は復位の保持指導 発症早期ほど成功率が高い

※ 訓練は「痛みを我慢して強く開ける」ものではありません。翌日に痛みが増える強度は過剰です。歯科衛生士による指導と、記録用紙(VAS・実施回数)の併用が継続率を上げます。

3. スプリント(オーラルアプライアンス)療法

  • 第一選択は スタビライゼーション型(全歯列被覆、均等接触、硬質レジン)。夜間装着が基本
  • 前方整位型スプリントは適応が限られ、長期使用で咬合変化のリスクがあるため、期間を区切って管理します
  • 部分被覆型・挙上(ピボット)型を漫然と使用しない。咬合の不可逆的変化を招きます
  • 装着後は開口量・疼痛・装着時間を定期的に記録し、効果がなければ漫然と続けず方針を見直します

4. 薬物療法

薬剤 位置づけ
NSAIDsなど鎮痛消炎薬/アセトアミノフェン・エトドラク・ロキソプロフェンNaなど 急性期の疼痛管理。短期間・頓用が原則
筋弛緩薬 筋緊張が主体の例に短期併用が基本
三環系抗うつ薬(低用量) 慢性疼痛・睡眠障害を伴う遷延例。適応外使用となる場合があり、説明と同意を要する
関節内注射(ヒアルロン酸Na)/パンピング 保存療法抵抗例。実施施設を選ぶ。ステロイドの反復投与は避ける

5. 心理社会的アプローチ

慢性化例では、認知行動療法的アプローチ(痛みへの過度な注意の是正、活動の段階的再開)、バイオフィードバック、必要に応じて精神科・心療内科との連携が有効です。疼痛の遷延を「気のせい」と伝えないこと、しかし身体所見だけで説明しきれないことを共有することの両立が要点です。

咬筋へのボツリヌス療法

位置づけの確認

  • 本邦において、顎関節症・ブラキシズム・咬筋肥大に対するボツリヌス毒素製剤の投与は 保険適用外(適応外使用) です。自由診療として、目的・代替手段・費用・合併症を書面で説明し同意を得たうえで行います
  • エビデンスは限定的で、咀嚼筋痛に対する効果は一貫していません。初期治療ではなく、標準的保存療法を十分に行っても改善しない症例への選択肢 と位置づけてください
  • 妊娠・授乳中、神経筋接合部疾患(重症筋無力症、Lambert-Eaton症候群、ALS)、投与部位の感染、製剤成分への過敏症では実施しません

適応の検討

  • 咀嚼筋(特に咬筋)由来の疼痛が主体で、セルフケア・運動療法・スプリント・薬物療法に抵抗性
  • 強い覚醒時/睡眠時ブラキシズムに伴う筋痛・修復物の破折の反復
  • 咬筋肥大に対する形態的改善(審美目的。疼痛治療とは目的が異なることを明確にする)

疼痛が主訴の場合、ボツリヌス投与後もセルフケアと行動変容の指導は継続 してください。筋活動を薬理学的に抑えているあいだに、負荷のかかる習癖を是正しておかないと、効果消失とともに元に戻ります。

外科療法という選択肢

保存療法で改善しない症例には外科療法の選択肢があります。全体から見れば少数ですが、「顎関節症=手術はしない」ではありません。当院で対応可能です。適応を逃さないために、以下の段階を念頭に置いてください。侵襲の小さいものから順に検討します。

術式 侵襲 主な適応
パンピング・マニピュレーション療法 外来・局所麻酔 非復位性円板障害の開口障害、関節内の癒着が軽度な例
顎関節上関節腔洗浄療法(アルスロセンテーシス) 外来・局所麻酔 疼痛・開口障害が保存療法抵抗性。炎症性メディエータの洗浄と軽度癒着の剥離
顎関節鏡視下手術 入院・全身麻酔 洗浄で改善しない癒着、滑膜病変の処置、鏡視下での円板形成など
顎関節開放手術(円板整位術・円板切除術・関節形成術) 入院・全身麻酔 高度な円板変形、重度の変形性変化、鏡視下で対応困難な病態
顎関節形成術・人工関節置換 入院・全身麻酔 骨性強直症、重度の下顎頭吸収・破壊、腫瘍切除後の再建
顎矯正手術との併用 入院・全身麻酔 顎変形症を伴い、骨格性要因が症状に関与している例

紹介のタイミング

適切な保存療法を 3か月程度 継続しても、疼痛または開口障害が日常生活に支障を来す水準で残る場合、また強直症・進行性の骨吸収・腫瘍性病変が疑われる場合は早期に紹介をご検討ください。長期の保存療法のみで経過した強直症例は、機能回復が難しくなります。

紹介・連携について

こういう症例をご紹介ください

  • 初期治療(セルフケア・運動療法・スプリント)を1〜2か月行っても改善が乏しい
  • 急性の開口障害(無痛開口量が概ね 25mm 未満)で、徒手整位が奏効しない
  • 顎関節症以外の疾患の可能性がある、レッドフラッグに該当する所見がある場合
  • 画像評価(MRI・CT)の適応があるが自院で撮影・読影できない
  • 咬合治療・補綴・矯正の前に、顎関節について評価が必要
  • 慢性疼痛化しており、心理社会的評価や多職種での対応が必要
  • ボツリヌス療法など、標準治療以外の選択肢の適応判断を求めたい
  • 習慣性顎関節脱臼、陳旧姓顎関節脱臼で整復が困難な場合

診療情報提供書にご記載いただけると助かる項目

経過

  • 発症時期・契機、これまでの経過
  • クリックの既往と、消失した時期
  • 実施済みの治療と、その反応

所見・資料

  • 無痛/最大開口量(mm)、偏位の向き
  • 圧痛部位、関節音の種類
  • 撮影済み画像(可能ならデータで)
  • 現在の処方、全身既往、服薬内容

紹介後の流れ

  1. 初診時に評価を行い、当日または後日、方針を記載した返書をお送りします
  2. 専門的な処置が必要な期間のみ当院で対応し、その後は原則として貴院にお戻しします
  3. スプリント調整・メンテナンス・セルフケアの継続確認は、貴院との分担をご相談させてください

ご予約・お問い合わせ

TEL:079-563-2100(平日 9:00–18:20)/ FAX:079-563-2117

診療情報提供書のご準備をお願いします

本ページは当院の診療方針を医療関係者向けに整理したものであり、個々の症例における診断・治療の判断に代わるものではありません。薬剤の用法・用量および適応については、必ず最新の添付文書および各学会の指針をご確認ください。適応外使用にあたっては、施設の規程に従い、患者への説明と同意の取得を行ってください。当院では日本顎関節学会 専門医・指導医・認定医が診断・治療を行います。当院は日本顎関節学会 関連研修施設です。認定医・専門医、日本顎関節学会 認定衛生士の指導および育成も行なっています。

主な参考

  1. 日本顎関節学会「顎関節症の病態分類(2013年)」
  2. 日本顎関節学会「顎関節症患者のための初期治療診療ガイドライン」
  3. Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders(DC/TMD)Axis I / Axis II
  4. 日本顎関節学会「顎関節症治療の指針」
ページの先頭に戻る